久しぶりに浅田次郎氏の作品を読みました。
別荘地に住む高齢の男性。ある雷雨の夜に近所の人らしき女性が庭に迷い込んできます。
雨宿りがてら会話を交わし、そのお礼として降霊会に誘われます。
そこで過去に経験した悔悟に関連する霊が幾人も現れ、その時のそれぞれの事情を打ち明ける、という話です。
前半は男性の小学生時代。戦後間もない、世の中がまだ混沌に満ちていた時代です。
ある日引っ越してきた同級生。帰り道が同じだという理由で仲良くなったのですが、どことなく違和感を抱きます。実は同級生の父親は子供を当たり屋として使い、過去に2度も事故に合わせています。そして結果的に殺してしまうのです。ダンプに当たりに行く瞬間を見ていた少年時代の男性。なのに見ていなかったことかのように忘れようとしていた自分。
降霊会では同級生の親や警察官、祖父がその時の悔悟や思いを口にします。
後半は男性の大学生時代。「真澄」という友人の女性にずっと片思いされていたにも関わらずそれに気づかず、別の女性に惹かれた男性。その想いに打ちひしがれた真澄は死んでしまいます。また真澄に片思いしていた男性の友人。彼も40半ばで病気に倒れます。
彼らの思いが時を経て降霊会で吐露されます。想いを告げた霊たちは、どこへ行くのでしょうか?
しかし降霊会から帰った翌日、庭に迷い込んだ女性も降霊会があったお屋敷も、実際には存在していないことがわかります。あれは何だったのでしょうか・・?
そこに書かれているのは、行き場のない想いです。戦後の混迷期。学生紛争のさなかに持て余した時間。日本はどんどん豊かになったというけれど、降霊会に出てきた彼らは幸せだったのか?幸せを求めて目を瞑った、もしくは見なかった・知らなかったことにした数々の事柄。その結果、主人公の男性は幸せを得ることができたのか?
この本を読むと、いろいろ考えされられます。児童虐待や介護問題、貧困など、これだけ豊かになったにも関わらず、まだまだ問題が山積しています。それに対して自分は何をやっているのか?見なかった・知らなかったことにしていないか。時代は違うけれど私もやっていることはさほど変わらないように思えます。
夏の夜に読むにはぴったりの、心をヒヤッとさせられる本です。Cold Heart。
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